taro-h’s diary

たろログ

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「動画等を利用した二次創作の無断アップロードについて、営利目的ではない場合は著作権法38条第一項が適用され、著作権法違反ではなくなる」という誤解について

耐久動画を見ていたら

昔からよくあるような1時間耐久動画を閲覧していたところ、以下のようなコメントを発見しました。
非営利であれば、著作物を無断転用していいという旨のコメントです。

どんな耐久動画にもあるコメ。
「本人(ここではorangestarさん)に許可取りましたか?」
著作権法第21条より簡単に引用
著作者以外が著作物を複製する場合、原則著作者に許諾が必要になるが、「著作権法が定める条件を満たす場合」は、著作者に許諾無しに複製する事が出来る。

> 「著作権法が定める条件を満たす場合」
この多くは著作権法第38条にまとめられます。(勿論これ以外もあるけど…)簡単に引用
『営利目的でない場合、聴衆者から金品を受け取らない場合、演者(ここで言う耐久を作った方が当たるかと…)にお金が支払われない場合、著作物及び著作者を予め明言している場合』となります。
以上を踏まえるとこの動画はorangestarさんに許諾を取らなくても大丈夫です。

でも、耐久動画1回みたら1回はご本人様の動画1回ぐらいは再生しようね。
著作権法は著作者の著作に対するやる気を失わない為の法律でもあるから。

間違えたり大分端折った部分があるかと思いますが長文失礼しました。

追記:動画主が広告を付けない設定にしていてもYoutube側が勝手に広告を付ける場合があるので「広告付けてるので著作権法違反」みたいなコメントは控えましょう。

著作権、そんな規定あるの????と思い、調べたところ、本当にありました。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

ただ、いくら非営利とはいえ、インターネットで他人の曲を許諾なく投稿するのが合法というのはすんなりとは受け入れられず、まずこの記載にインターネットが該当するのかについて調べてみました。

結論

結論としては、このコメントの主張は誤っている可能性が高いです。
著作権法第38条はインターネットには適用されず、営利目的でなくとも無断での複製・無断利用は違法と判断される可能性が高いと考えます。

第38条が適用されるのは 公に上演し、演奏し、上映し、又は口述する 場合です。これにインターネットでの放送(公衆送信)は含まれないと解釈するのが妥当と思います。

指摘事項

@namiyome さんからご指摘をいただきました。ありがとうございます。 確認の上修正いたします。 修正が完了するまでにラグが生じますので、一時的にご指摘いただいたツイートを引用して掲載させていただきます。

著作権法第38条

該当箇所の全文は以下のようになります。著作権を制限する規定のひとつです。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

2 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。

3 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

4 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

5 映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設(営利を目的として設置されているものを除く。)で政令で定めるもの及び聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で前条の政令で定めるもの(同条第二号に係るものに限り、営利を目的として当該事業を行うものを除く。)は、公表された映画の著作物を、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物の貸与により頒布することができる。この場合において、当該頒布を行う者は、当該映画の著作物又は当該映画の著作物において複製されている著作物につき第二十六条に規定する権利を有する者(第二十八条の規定により第二十六条に規定する権利と同一の権利を有する者を含む。)に相当な額の補償金を支払わなければならない。

https://www.cric.or.jp/db/domestic/a1_index.html#2_3e

第一項について、インターネットへのアップロードは該当しない

冒頭のYoutubeのコメントでは、「演者」が耐久を作った方(アップロード者)に当たると述べられていました。

営利目的でない場合、聴衆者から金品を受け取らない場合、演者(ここで言う耐久を作った方が当たるかと…)にお金が支払われない場合、著作物及び著作者を予め明言している場合

これは、第一項のことかと思います。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

「公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる」と記載されています。 ここにはインターネット配信を含まないという解釈が妥当かと思います。

実際に文化庁の説明においては、「公衆送信」は含まれないということが明記されています。

≪営利を目的としない上演等≫
 著作権の制限規定の一つです(第38条)。複製以外の方法により著作物を利用する場合において、著作権者の了解が必要ないときの要件を定めています。著作物の利用方法に応じ次のような要件が満たされた場合は、著作権者の了解は必要ありません。
1 学校の学芸会,市民グループの発表会,公民館・図書館等での上映会など(第38条第1項)
【条件】
ア 「上演」「演奏」「口述」「上映」のいずれかであること(「コピー・譲渡」や「公衆送信」は含まれない)
イ 既に公表されている著作物であること
ウ 営利を目的としていないこと
エ 聴衆・観衆から料金等を受けないこと
オ 出演者等に報酬が支払われないこと
カ 慣行があるときは「出所の明示」が必要(第48条)

2 「非営利・無料」の場合の「放送番組の有線放送」(第38条第2項)
  「難視聴解消」や「共用アンテナからマンション内への配信」など,放送を受信して直ちに有線放送する場合の例外です。
【条件】
ア 営利を目的としていないこと
イ 聴衆・観衆から料金を受けないこと
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/1tyosaku/koukousoft/newyogo.html

公衆送信とは、

公衆送信 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が2以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

という定義のされたものであり、これは一般にインターネットを含みます。

第二項について、インターネットへのアップロードは該当しない

有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として

とあります。

有線放送とは一般に、有線ラジオ放送や、CATVのことを指します。公衆送信を含みません。

有線ラジオ放送っていうのは、お店とかで音楽を垂れ流し続けてるあれですね。

また、「専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として〜」について、全世界に情報を公開するインターネット(公衆送信)を含まないのは自明かと思います。

第二項は、有線ラジオ放送や、テレビ放送等を想定した項目でしょう。

第三項について、インターネットへのアップロードは該当しない

第三項の記載についてインターネットが該当するように思われますが、これも該当しないと考えられます。

3 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

「放送され、又は有線放送される著作物」とあります。

放送とは、文化庁の定義によればテレビ放送等を指すものです。 インターネットを含まないことが明記されています。
有線放送についても前述の通り、インターネットを含みません。

放送
「公衆送信」のうち、公衆(「不特定の人」又は「特定多数の人」)によって同一の内容 (著作物に限らない) が同時に受信されることを目的として行う無線の送信であり、具体的には、テレビ放送のように、番組が「常に受信者の手元まで届いている」ような送信形態のものです(第2条第1項第8号)。

 サーバー等の自動公衆送信装置を介する場合は、「インターネット放送」「ウェブキャスト」など、装置内での「蓄積」を伴わずに送信される場合であっても、「番組が常に受信者の手元まで送信される」ものではないため、放送には該当しません。
著作権なるほど質問箱

第四、五項について、インターネットへのアップロードは該当しない

第四項は貸し借りについての規定であり、インターネットが該当しないことは自明でしょう。

第五項は「映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設」における話です。インターネットは該当しませんし、また、この場合の頒布者は「相当な額の補償金を支払わなければならない」と書いてあるので、そもそも金銭の支払い等が必要となります。

所感

というわけで私は、「著作物のインターネットへのアップロードについて、営利目的ではない場合は著作権法第38条が適用され、著作権違反ではなくなる」という理解は誤りであると思います。

法を守ろうという意識の現れ

今は少なくなりましたが、ツイッターで「著作権法第38条1項」で検索すると 「著作権法第38条1項で、営利目的でなければ利用することができる」というツイートが散見されました。

これ、法を守ろうという意識の現れだと思うんですよね。 法律を守ろうという意識がなければ、そもそもこのような例外規定についての話になることもありません。
体感ですが10年ほど前は、そもそも著作権違反することについて今ほどみんなシビアでなかったように思います。インターネットでは著作権なんて気にする必要はない、みたいな空気がありました*1

この著作権法の第38条第1項の解釈が広まったのも、「二次創作の動画等を公開したいが、著作権に違反したくない。どうすればいいのだろうか」と考える人が多かった故に受け入れられ、広まったのではないかと思います。

著作権法の穴をついて著作権者の利益を損害してやろう」みたいな、悪人はごく少数派だろうと思うわけです。

法律的にクリアなわけではなく、著作権者の厚意で成り立っているという認識は必要

ただし、残念ながら、著作権法第38条についてのこの解釈は誤っています。
著作権親告罪です。著作者さんが「やめてください」と言った瞬間、アップロード者は動画を削除しなくてはなりませんし(差止請求)、著作者側に損害が生じていることが立証されれば、アップロード者はそれを賠償する義務を負うことになります(損害賠償請求)*2

参考: 著作権なるほど質問箱

二次創作等を行う場合、常にこの危険と隣り合わせになるということは意識しておいたほうがいいと思います。

必ずしも白黒つけなければいけないわけではないのでは?

毎回許可を取るのがいいの?

これが正攻法かと思いますが、少し許可を申し込まれる著作権者側の立場になって考えてみましょう。
申し込む側は1回ですが、受け取る側には数百の申込みが来るわけです。

人によるとは思いますが、正直うんざりしてしまうのではないかと思います。

ちょっとこれをどうしたらいいかについては、私には判断しかねます。 相手のことを考えて、相手に合わせ、状況に合わせて行動してみてください。

同じことを何度も言わせるという状況を避けるために、本人に直接確認する前に「orangestar 二次利用」などで検索してみて、すでに二次創作に対するスタンスを示していないか確認してみるのもいいと思います。

グレーゾーンは、著作権者にとっても都合がいいと思われる

これは私の考えです。
少し長くなった & 少し本題からずれるので、別の記事として投稿しようと思います。

p.s. 投稿しました

taro-h.hatenablog.com

個人攻撃は誰も幸せにしないのでやめよう

無断アップロード動画について、「〇〇さんの許可とったんですか?」というコメントがよく見かけられます。 また、違法であると断じて、アップロード者に対する攻撃的な内容の書き込みが見られることもあります。

著作権侵害は刑事事件とは異なり民事であり、当事者の間での問題です。
刑事のように、我々関係ない一般人が怒って警察等に訴えても犯罪にはならないんですね。
著作権者本人が明示的に許可していなくても、内心で「別にオッケー」と思っていれば、問題はないわけですね。

傍からみて、白黒つけたいと思うかもしれませんが、当事者間での問題です。

「許せない」という気持ちはわかりますが、それはあなたのエゴであり、攻撃しても誰も幸せになりません。

著作権者が「二次創作許せないので、不正利用あった場合は連絡ください」という態度を示している場合は、著作権者に情報共有してみるのがいいでしょう。

ただ、それ以外の場合については、著作権者に「こんな動画ありましたが許可したんですか?」と連絡するのも避けることを推奨します。あなたの善意が迷惑になる可能性があります。

本件についての個人攻撃も避けるようお願いいたします

著作権法第38条第1項が適用され、著作権違反ではなくなる」という主張をしている人を攻撃するのも避けてほしいなと思います。

前述したとおり、悪意*3があってやっているわけではない人が大半だと思います。
今後当ブログが引用して指摘や反論がされることがあるかもしれませんが、ツイッターで誤った主張をしている人をあぶり出して晒し上げたり、暴言を投げかけたりすることは避けていただくよう、お願いいたします。

あなたが気持ちいいだけで、誰も幸せになりません。

顛末

当該コメントは結構高評価されており、Youtubeの仕様で一番上に表示されていました。

今回の前提として、orangestarさんは二次創作についてのスタンスを明確にしているというのがあります。

なので、orangestarさんの楽曲については、この文面の範囲内であれば利用しても構わないんですね。 この耐久動画は全く問題ないわけです。

ただコメントはそこから踏み込んで、「そもそも著作権法第38条が適用されるので、許諾を得ずとも著作物を二次利用しても良い」という論を展開していました。

この認識に基づくと、同様の楽曲はすべて、非営利であれば許諾を得ずとも利用できるという誤解を生んでしまいます。

著作権者「ちょっとこの動画私の動画なので、消してもらってもいいですか?」
アップロード者「非営利なので著作権の対象外です!(悪意はない)」

みたいな、誤解に基づいた不毛なトラブルが発生する可能性があるんですね。

というわけで、このコメントにそれは違いますよというリプライをしたのが1ヶ月前。

少し前のことですが、当該コメントは削除されており、それに紐付いた私のリプライも表示されなくなっていました。

相手を思いやり、相手に合わせた判断と行動を

私は二次創作の文化が大好きです。

自身も作品を投稿し、それを二次利用してもらったことがあります。あれはすごく嬉しいんですね。 僕自身で言えば、明言はしませんが二次創作は全然おっけーな立場です。

ただ、いろんな人がいて、それぞれいろんな考え方をしています。 著作権に関する問題は繰り返しますが民事です。この線を越えたら違法というものではなく、著作権者がNGといえば全部NGだし、おっけーと言えばおっけーなんですね。

自分の作成しようと思っている二次創作を原作者が見て、どう思うかなと想像してみましょう。
またツイッターなどを利用していれば、ツイート内容からその人の立場や考え方、許容ラインがなんとなくわかってくるものです。

相手を思いやり、リスペクトを忘れずに行動することが、トラブルを避ける一番の方法かと思います。

あと当然ですが、削除してください等の連絡があった場合はすみやかに消して謝罪しましょう。

当記事について

私は法律を少しかじった程度の一般人であって、弁護士等の法律の専門家ではありません。

文化庁ホームページ等、情報元については信頼できる情報を参照し、そこから論理を積み上げて今回の「著作権第38条にインターネットは該当しない」という結論を出しましたが、考慮漏れ等があり、結論が誤っている可能性があります。

法律というのは素人が扱うと誤るリスクの高いものと認識しています。自分なりに結論を出し、その結論に自信もありますが、もしかしたら間違っているかもしれません。

ぜひこの問題については、弁護士さん等信頼のある立場の方に記事を書いていただきたいなと思います。

*1:要出典

*2:損害賠償請求となると示談を経ることになると思います

*3:本記事での悪意という単語は、法律用語における悪意の意味ではなく一般的な意味として使用しています